トップ > ねりま人 > ねりま人110 夏井睦さん


プロフィール
夏井睦さん
なつい まこと 1957年、秋田県生まれ。3人兄弟の長男で、父は数学・母は国語の教師。東北大学医学部卒業。1996年から外傷ややけどに有効な「湿潤治療」を提唱。ホームページと講演活動を中心に治療の普及にあたる。「傷の治療センター」を独自に立ち上げ、長野県、茨城県の病院に続き、2012年4月より「練馬光が丘病院 傷の治療センター」科長に就任。著書は、『キズ・ヤケドは消毒してはいけない』(主婦の友社)など多数。お酒と宴会が大好きで、ワインバー、居酒屋などによく行く。練馬でお気に入りのお店は「ブッチャーズ+バル」。

新しい創傷治療

練馬光が丘病院
傷の治療センター

ねりま人 バックナンバー

常識も失敗もおそれずに
新しい治療法を確立した


 傷ややけどの治療について、最近、「消毒しない、乾かさない」という方法をよく耳にしませんか? 「湿潤(しつじゅん)療法」と呼ばれる治療法を開発して広めているのが、練馬光が丘病院の夏井 睦先生です。

 湿潤療法とは、傷を修復し皮膚を再生させる滲出(しんしゅつ)液という体液を、乾かさないようにすること。基本は傷口を水でよく洗い流し、専用のシート(または白色ワセリンを塗ったラップ)などで覆うだけ。いたってシンプルです。

 実は1950年代、アメリカで元となる理論が初めて発表されましたが、書いた本人でさえ革命的だと気づかないまま、1980年代に…。病棟での褥瘡(じょくそう)、いわゆる床ずれの治療の際、乾燥させない治療が再発見されます。

「1996年に床ずれ治療の担当になったんですが、若い医師が乾燥させない治療の本を見つけてきて、挑戦したいというので、『やってごらん』と背中を押したんですよ」

 寝たきりの高齢者を治療しつつ、ふと「若い人の傷の治療に使ってみては?」と思いたち、許可をとったうえで試してみると、翌日、目覚ましく経過がいいのでビックリ。「これは使える!」と確信したそうです。

 さらに「治療中も痛くない」という患者の言葉を聞き、猛勉強の日々。うまくいかないたびに徹底的に考え、方法を確立させていきました。常識にとらわれず、追究する姿勢は、どこから生まれるのでしょうか?

「集団というのは2:8に分かれるという法則があるそうです。2割は新しもの好きで、何にでも『面白そう』と手を出し、失敗から学んでいくタイプ。8割は新しい知識に触れたら、『何か起きたらどうしよう』と躊躇か拒否をするタイプ。僕は昔から、新しもの好きでしたから(笑)」

 湿潤治療が確立したことで、治療法が増えたということになります。患者さん自身が治療法を選択する時代になったんですね。



治療法の情報発信に、趣味の
ピアノとパソコンが役立った!


 新しもの好きという夏井先生は、趣味でも相当な凝り性のようです。

「ピアノは7〜17歳まで習って、修学旅行先でも弾きたくてうずうずして、楽器店を探して弾いてました(笑)。今は、音大生やプロでもやらない難曲に、挑戦するのが楽しくて」

 取材陣の前で披露してくれたピアノは、セミプロ級の腕前! もうひとつの趣味であるコンピュータを持ったのは、1984年のこと。インターネット創成期からプログラムを勉強し、自作のゲームを作っていたと言います。

「ピアノの超難曲の楽譜や曲の解説を、ホームページですでに公開していました。『湿潤治療』を世間に知らせるのにもホームページが有効だろうと、2001年から『新しい創傷治療』のホームページを立ち上げました。この傷が何日後にはこうなったと、症例を写真で見せて情報公開していくことで、患者さん自身がどうしたいか、考えられるんです」

 症例の数は1,500にのぼります。知らせたい、という熱意が画面からあふれ出ていて、ぶれない先生の姿勢が伺えます。今はスマホで何でも調べられるので、全国、さらに海外からも患者さんが来院するとのこと。

 そんな先生が、医者を目指したきっかけを聞くと、「単に成績がよかったから(笑)」。でも、実際「なってよかった」と思えるようになったのは、最近だそうです。

「40代半ばまで、手術がうまいわけでもない、普通の医者だったんですよ。この治療法を確立させたおかげで、患者さんから感謝されるようになりました」

 先生の診察室には、子どもやお母さんたちからの手紙があちこちに貼ってあり、どの手紙からも「ありがとう」の気持ちがあふれています。

(2015年12月1日)

先生の著書は10冊以上
出版されています
(左)春秋社、(右)主婦の友社


日本で唯一「傷の治療センター」
がある、練馬光が丘病院


受付の様子


「大規模災害で病院に行けない時、水とラップ1本あれば
100人位のけが人を治療できる」
という著書のあとがきが
印象に残る


先生の趣味はピアノ。
診察室にも置いてあり、
休憩時間などに練習している


診察室にはおもちゃがいっぱい。
子どもの不安を和らげようとする
気持ちが伝わってくる


治療を受けたお子さんから
お手紙が届くことも


後進の育成にも熱心な先生。
「すぐに『教えて』ではなく、
間違ってもいいから、
自分でじっくり考えるべき」
が、指導のモットー